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 顔 -Nightmare-

ふと目が覚めると、そこは私の部屋ではなかった。


部屋の中は薄暗く、足元の方にある窓だけがぼんやりと明るい。
その事が却って闇を濃くしているようだった。

しばらくすると目が慣れてきて、私は畳の上に敷かれた布団に横たわっているのがわかった。
左手にも窓があるようだが、雨戸が閉まっているのかそこから明かりはもれてこない。


ああ、なんだ。
私が昔住んでいた家じゃないか。


よく見ると、窓の傍にある家具も見慣れたものである。
しかし、私は何でここで寝ているのだろう。
確か自分の――独り暮らしをしている部屋で寝ていた筈なのに。

その時、静かに襖が開き、誰かが部屋に入ってくるのが分かった。
『気が付いたの?』
母の声だ。
私は何か返事をしようと口を開いた。しかし、うまく声が出ない。
身体を起こそうとしたが、身体も動いてくれなかった。

『覚えてる?あなた倒れたのよ』
一時は危なかったんだから、そう言う母の顔は、部屋が暗くてよく見えない。
その声は静かで穏やかであり、どんな気持ちでいるのかは読み取れなかった。

しかしいきなり倒れた、と言われても納得できない。だって確かに自分は部屋で寝ていたのだから。
そう思いつつ、恐る恐る自分の頬に手をやり、愕然とした。


それはガサガサとしていた"皮"そのもので、肉感がまるでない。
目を見開いたままその手に目をやると、ミイラのように乾いて痩せ細っていた。


ひょっとして、自宅で倒れているところを発見されたのだろうか。
それともまったく別のところで倒れたのに、自分の記憶が飛んでいるだけなのだろうか。
どのくらいの時間が経っているのだろう、とまだうまく働かない頭で考えながら、母に身体を起こすのを手伝ってもらい、よろよろと壁伝いに居間へ向かった。


居間は明るく暖かだったが、ただ静かであった。
外からは、子供たちの遊ぶ声が微かに聞こえてくる。
そこに在る音は、ただそれだけだった。


母に肩を借りたまま、部屋の隅へ腰を下ろそうとした時。
左手にある鏡が、それに映る自分の姿が目に入った。



――頬や唇には赤みがなく、落ち窪んだ目がこちらを睨んでいる。
髑髏に土気色の皮が張り付いているような、死人のような顔――。



気づけば、私は悲鳴を上げていた。
声にならない声で。








そんな夢を見た。

時々、何の脈絡もなく悪夢を見る事がある。
今回のは久々に怖かったなあ。
ざぶとん一枚。→

  by RX-Kei | 2006-02-19 22:55 | 小咄 | TOP▲

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